生きづらさ" - その生の残響構造を探る 第11話
📖 『こころ』という小説の問いかけ
夏目漱石の代表作『こころ』は、日本近代文学を代表する作品です。
物語は「私」と「先生」の交流を軸に進み、最後には「先生」の告白が重くのしかかります。
この小説の核には、「孤独」というテーマがあります。
漱石は「人はなぜ孤独になるのか」、そして「孤独の果てに何が待つのか」を問いかけました。
🌑 「先生」の孤独
「先生」は、自らを世間から切り離し、沈黙と秘密の中に生きています。
彼の孤独は、単なる一人ぼっちではなく、他者と関わりながらも深まっていく孤独でした。
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親友を裏切った罪悪感
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愛する人への思いを言葉にできなかった不器用さ
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自分だけの秘密を抱えたまま生きる苦しさ
こうした積み重ねが「先生」を閉ざし、
やがて死へと至らせてしまうのです。
⚖️ 孤独の構造とは?
『こころ』が描いた孤独は、「他者との関係が絶たれた状態」ではなく、
他者と関わり続けながら、なお孤独が深まっていく構造です。
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他者を求める
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しかし、他者に心を明け渡すことができない
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結果として、より深い孤独に落ち込む
この「近づきたいのに近づけない」というねじれが、
漱石の描いた孤独の本質でした。
🧩 現代における『こころ』
SNSやリモートワークで常に「つながっている」現代。
にもかかわらず「孤独感」が高まっているといわれます。
これは、漱石の描いた孤独の構造と響き合っています。
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いつでも他者にアクセスできる
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けれど、本当の気持ちは言えない
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表面的な交流の中で、むしろ孤独が深まっていく
漱石の『こころ』は100年以上前の作品ですが、
その孤独の構造は今なお、私たちの生きづらさと直結しているのです。
🪶 結びに
漱石が描いたのは「他者の中にいてなお孤独である」という矛盾でした。
それは現代を生きる私たちにとっても、避けがたい現実です。
けれど、この矛盾を「仕方のないもの」として受け入れることができたとき、
孤独は単なる苦しみではなく、人間であることの証にもなり得るのかもしれません。
📌 次回予告
第12話では、「カフカと変身願望──異物としての自己」をテーマに、
自分が自分でなくなることへの欲望と恐怖を掘り下げます。