思想工学ブログ

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第2章 基礎構造の定義と分類

2.1 四層構造モデル

思想工学は、その多様なモデル群を統合的に扱うために、以下の四層構造を採用する。

  • (第1層)構成単位層:思想の最小構成要素(アルファベット)を定義する。

  • (第2層)設計過程層:思想が生成・循環・変容するプロセスを記述する。

  • (第3層)表現・記述層:思想を可視化し、外化・再設計を可能にする。

  • (第4層)非構造・根源層:あらゆる構造の外部に位置しつつ、その生成を駆動する契機を扱う。

この四層構造により、思想工学は「単位 → プロセス → 可視化 → 根源」という階層的連関をもって思想を設計対象とする。この全体像を、以下の概念マップに示す

図1:思想工学 四層構造モデル 概念マップ

 

思想工学において思想の最小単位を規定する枠組み。

(1) PRENモデル Preparation(前提)、Relation(関係性)、Entity(主体)、Nexus(結節点)の四要素から成る。ここでいう「関係性(Relation)」とは、主体や結節点を成り立たせるための前提となる、より抽象的で広範な文脈的連関を指す。

(2) インドラネット(Indra-Net) 華厳思想に由来するモデルで、存在を節点(node)、関係(relationship)、モジュール(module)として表現する。ここでいう「関係(relationship)」とは、節点同士を結びつける、より具体的で個別的な接続を指す。

【補足:両モデルの棲み分け】 PRENモデルとインドラネットは、ともに思想の構成単位を定義するが、その焦点が異なる。

PRENが思想を可能にする意味論的な場の構造(部品表)を問うのに対し、インドラネットはその場において要素がどのように構造的なネットワークを形成するかを記述する。すなわち、PRENが「思想のアルファベット」を与えるとすれば、インドラネットはそれらが織り合わされる「文章」の全体像としての織物を示す。両者は対立せず、互いに補完し合う関係にある。

2.3 第2層:設計過程層

思想を静態的に捉えるのではなく、生成・変容・自己更新する動態的プロセスを扱う。これらのモデルは、思想の動態を捉える焦点に応じて使い分けられる。

(1) SEEDモデル Structuring–Engaging–Erring–Developing の循環。特に「誤謬」や「失敗」からの自己更新を重視する場面で有効な、診断的・処方的な性格を持つモデルである。

(2) DSSSモデル 問いが構造を動態的に変化させる設計フレーム。外部からの「問い」に応じて構造全体が流動的に変化していく様を記述することに特化しており、他者との対話や環境変化への適応プロセスを分析するのに適している。

(3) RQUモデル 問い → 再構成 → 再問い、という再帰的ユニット。思想が内的な「問い」によって自己駆動し、再帰的に発展していくミニマルな生成サイクルを記述する。個人の思索や概念の深化プロセスをモデル化する際の基本ユニットとなる。

2.4 第3層:表現・記述層

思想を外化し、記録・再設計を可能にするモデル群。

(1) SCAモデル 思想の構造を外在化し、可視化・再設計を可能にする認知設計モデル。

(2) SCMモデル 語られなかった問いや沈黙を記録する補助モジュール。沈黙を「思想のポテンシャル領域」として保存する。

(3) POEMS 思想を詩的・断章的に表現する生成構造。SCAやSCMが既存の思想構造を分析・可視化するための「読解」の技術での技術であるとすれば、POEMSは新たな思想の可能性を切り拓くための「記述(エクリチュール)」の技術である。思想工学は、論理的・分析的な記述法だけでなく、このような詩学的な生成法をもその方法論的ツールキットに含めることで、知の厳密性と創造性の双方を追求する。

2.5 第4層:非構造・根源層

思想工学が最終的に参照せざるをえない、構造化以前の開かれを扱う層。

(1) Unbounded Layer(無辺源層) 構造・問い・存在のいずれにも還元できない根源的開かれ。「構造以前の開かれ」「自己更新の根源層」として思想工学の基盤に位置する。

(2) 問音(mon-on) 無辺源から鳴る問いの前兆的響き。これは思想構造を起動する契機として設計上の指標となる。

2.6 四層構造の意義

この四層構造モデルによって、思想工学は以下を可能にする。

  • 要素の定義(第1層)

  • 生成プロセスの記述(第2層)

  • 可視化と表現(第3層)

  • 根源的契機の保持(第4層)

従来の哲学が「思索」として記述してきたものを、思想工学は設計可能な構造体系として提示する。言い換えれば、この四層構造は、単なるモデルの分類リストではない。それは、思想という複雑な対象に接近するための思考の足場(スキャフォールディング)そのものである。思想を設計するとは、この四つの層を意識的に往還し、要素を定義し、プロセスを動かし、表現を与え、そして常に根源へと開かれてあろうとする、知的な運動の実践に他ならない。