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測定される心、管理される回復

"掴まず、抗わず、流れとともに"  第127話


あなたの心は、測定されている。

そう言うと大げさに聞こえるかもしれない。
けれど現代の職場では、かなり素直に事実です。

ストレスチェック。パルスサーベイ。エンゲージメント。幸福度。燃え尽きリスク。
それらがスコアになり、グラフになり、ダッシュボードに並ぶ。

第126話で扱った「燃え尽きのビジネス化」は、ここでいよいよ個人の内側に入り込んできます。
燃え尽きが商品になると、次に起きるのは、測定と管理です。

結論から言います。

測定は、支援にもなる。
しかし測定が道徳になると、心はさらに壊れる。
回復が管理されると、回復は仕事になる。

測定は中立ではない

測ること自体は悪ではありません。
問題は、測定が「目的」を連れてくることです。

測るという行為は、こう言っているのと同じです。

これが重要だ
これが良い状態だ
これがあるべき姿だ

つまり測定は、価値判断を内蔵している。
そして職場で行われる測定は、多くの場合「生産性」と結びついています。

心を守るための測定に見えても、最終的にはこう接続される。

離職を減らしたい
欠勤を減らしたい
成果を落としたくない
現場を回したい

この接続がある限り、測定はいつでも「統治」に変わり得ます。

心の測定が、心の所有者を変える

ここが最重要です。

心が測定可能なものとして扱われると、心の所有者が変わる。

あなたの心は、本来あなたのものです。
しかしスコア化されると、心は「管理対象」になります。
管理対象になると、管理者が必要になる。

会社が管理する。
あるいは、あなたがあなたを管理する。

第125話の自己責任化が、ここで一段深くなる。
自分の中に管理者を住まわせるために、指標は便利すぎるからです。

最近、数値が落ちている
レジリエンスが低い
エンゲージメントが弱い
回復スコアが不足

こうして心は、状態ではなく成績になる。
成績になると、改善義務が発生する。

心が疲れているのではない。
心の点数が悪い。
この翻訳が始まった時点で、回復は難しくなります。

指標が道徳になるとき

測定が危険なのは、指標がいつの間にか道徳へ変わるときです。

高いスコアは良い人
低いスコアは問題のある人
改善できる人は立派
改善できない人は弱い

こうなると、燃え尽きは二重苦になります。

燃え尽きでつらい
その上で、燃え尽きている自分が悪い

支援のはずの測定が、自己攻撃の燃料になる。
本人が自分を責める材料が、丁寧に提供されてしまう。

そして職場側も、知らずにこの方向へ流されます。
指標があると「説明」できるからです。

数字で語れる
施策を出したと言える
改善計画と言える

しかし説明できることと、回復できることは別です。

管理される回復が、回復を壊す

次に起きるのが「回復の管理」です。

睡眠を最適化しよう
休息の質を上げよう
運動量を増やそう
マインドフルネスを習慣化しよう

ここまでなら悪くない。
問題は、回復が成果の手段になる瞬間です。

回復は、明日のパフォーマンスのため
休息は、生産性を戻すため
余白は、効率を上げるため

こうなると休息が仕事化します。
休むことに目標が入り、評価が入り、達成が入り、失敗が入る。

休めなかった
運動できなかった
睡眠が浅かった
整わなかった

回復の失敗が、自己否定になる。
そして自己否定が、さらに回復を妨げる。

これは第122話の言い方で言えば、断線の固定化です。
充電しているつもりで、配線をさらに傷つけている。

測定と管理が強いほど、休みが「外側」にならない

回復が成立するために必要なのは、休みが運用の外側にあることです。
ところが測定と管理が強いほど、休みは運用の内側に取り込まれる。

休みが内側にある限り、休みは評価の対象になり続けます。
評価の対象である限り、緊張が抜けません。

緊張が抜けない休みは、回復ではなく待機です。

待機が続けば、心はいつか折れます。
折れるのは根性ではない。構造です。

では、測定を捨てるのか

捨てる必要はありません。
ただし、扱い方を変える必要がある。

このシリーズは、戦って排除する道を選びません。
掴まず、抗わず、流れとともに。

測定の波は止められない。
だから波の中で、自分の主権を守る。

主権とは、価値の置き場所です。
指標があなたの価値を決めないようにする。
回復が成果の手段に吸収されないようにする。

そのための最小原則は次の3つです。

1 指標は判決ではなく、天気予報として扱う
良い悪いではなく、今日はこうなりやすい、という情報に落とす

2 測るのは心そのものではなく、設計との相性だと定義し直す
自分が弱いではなく、この運用ではこうなる、という読み替えに戻す

3 測定しない領域を意図的に残す
測らない時間、評価しない時間、改善しない時間を外側に置く
ここが回復の核になる

ここまで来ると、測定は支援になり得ます。
しかし道徳のまま使うと、測定は統治になる。

この違いだけは、見失ってはいけない。