"掴まず、抗わず、流れとともに" 第58話
難易度もルールも、まずは“デフォルト設定”を自覚するところから
前回までで見てきたのは、
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私たちは現実の0%しか知らない
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見えている世界は、「生き延びるのにそこそこ役立つUI」にすぎない
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「退屈な世界」は、世界そのものが薄いのではなく、
自分のUI(切り取り方)が単調になっているだけかもしれない
という視点でした。
ここからもう一歩、視点をメタレベルに上げてみます。
ヘッドセットをかぶったまま、そのゲームの「設定画面」を意識する
という発想です。
1. どんなゲームにも「設定画面」がある
多くのゲームには、「設定」や「オプション」の画面があります。
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難易度(EASY / NORMAL / HARD / NIGHTMARE …)
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音量や明るさ
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操作方法
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どのメーター(ライフ/スタミナ/魔力)を表示するか
プレイヤーはそこで、
「自分に合う遊び方」にあわせて、
ゲームの体験そのものを調整できる
ようになっています。
興味深いのは、
現実の人生ゲームにも、
実は似たような「設定」が存在している
という点です。
しかも厄介なことに、
多くの場合それは、
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自分で意識して選んだものではなく
-
親や学校、社会から「デフォルト値」として引き継いだもの
として、
最初からオンになっています。
そして、その設定のせいで、
本来よりもずっと難易度の高いモードで
毎日をプレイさせられている
ということが、往々にして起こります。
2. あなたの人生ゲームの「難易度設定」は?
まず、最も分かりやすい設定から見てみましょう。
人生ゲームの「難易度設定」
です。
たとえば、こんな「暗黙の難易度」が
自分の中に入ってしまっていないでしょうか。
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80点では不十分。常に120点を狙うべきだ
-
人より2倍やって、ようやく「普通」
-
疲れていても、頼まれたら断ってはいけない
-
迷惑をかけずに生きるのが大人だ
これらはどれも、
HARD 〜 NIGHTMAREレベルの難易度設定
です。
もちろん、
「高い目標を持つこと」は悪いことではありません。
成長を促してくれる側面もあります。
ただ問題なのは、
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自分でその難易度を「選んだ」という自覚がないまま
-
デフォルトでハードモードに固定されている
という点です。
ゲームだったら、
-
HARDを選ぶ前に
「NORMALでどんなゲームか試してみる」 -
自分の腕前に合わせて
途中で難易度を下げる
といったことができます。
でも、人生ゲームでは、
「つらいのは、自分が弱いからだ」
「もっと頑張らなきゃ」
と、設定そのものではなく
自分の側だけを責め続けてしまいがちです。
3. 暗黙の「勝利条件」何のメーターだけを見ているか
ゲームには、「勝ち負け」の条件もあります。
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ボスを倒せばクリア
-
得点が一定以上になればクリア
-
何日生き延びればクリア
人生ゲームにも、
自分なりの「勝利条件」が
暗黙のうちに設定されています。
たとえば、
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お金メーターだけを見ている
→ 収入や貯金額が増える=勝ち、減る=負け -
評価メーターだけを見ている
→ 他人から褒められる/承認される=勝ち、
無視される/批判される=負け -
生産性メーターだけを見ている
→ どれだけ多くこなしたか=価値
一方で、
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安心感
-
休息
-
好奇心
-
親しい人との時間
といったメーターは、
画面の外に追いやられがちです。
何のメーターを「画面に常時表示しているか」が、
日々の感情を大きく左右している
とも言えます。
同じ一日を過ごしても、
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お金メーターだけを見れば「今日は負け」
-
体調メーターを見れば「今日はよく休めて勝ち」
-
関係メーターを見れば「今日は誰かと笑い合えて勝ち」
ということもありえます。
しかし、デフォルト設定が
「お金と評価メーターだけ」になっていると、
人生のほとんどの日が“負け”に見えてしまう
という状態に陥ります。
4. 暗黙の「ルール」自分で決めた覚えのない禁止事項
もう一つ、人生ゲームを
不必要にしんどくしているのが、
暗黙のルール
です。
たとえば、次のようなものです。
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一度決めた道は、簡単に変えてはいけない
-
失敗したらゲームオーバー
-
迷惑をかけたら、その関係は終わり
-
弱音を吐いたら負け
-
楽しみながらやるのは“不真面目”だ
これらは、
ゲームでいうところの
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コンティニュー禁止
-
セーブポイント極端に少なめ
-
被ダメージ3倍
といった、かなりハードな縛りです。
しかも、多くの場合、
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親や先生の言葉
-
子どもの頃の経験
-
社会的な評判への恐れ
などがミックスされて出来上がっているので、
「これは現実のルールだ」
と感じられてしまいやすい。
結果として、
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新しいことに挑戦できない
-
失敗への恐怖で身動きが取れない
-
休んだり頼ったりすることが「反則」に思える
という状態に追い込まれます。
5. 現実×設定=「生きづらさ」という感覚
ここまでをまとめると、
生きづらさとは、
ヘッドセットとしての現実 ×
自分の難易度設定・勝利条件・暗黙ルール
の掛け算として
立ち上がっているのかもしれません。
-
現実の側には、どうしようもない制約もある
(時間・身体・お金・環境など) -
そこに、
「常に120点」「失敗=ゲームオーバー」
といったハード設定が重なる
その結果として、
「どうやっても勝てないゲームを
毎日プレイさせられている感覚」
が生まれます。
このとき、
ゲームそのもの(現実)を
全部変えるのは難しい。
しかし、
「設定画面」のほうを一度開いてみる
ことは、
誰にでもできる小さな一歩です。
6. 設定画面を開く:3つの問いかけ
では、具体的にどうやって
自分の設定画面を意識すればよいのでしょうか。
シンプルに、次の3つの問いを
自分に投げてみてください。
① 「私は、どんな難易度でプレイしていることになっている?」
紙やスマホに、
正直に書き出してみます。
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常に最高の結果を求めていないか
-
人の2倍やってようやく「普通」と感じていないか
-
少しでも休むと「サボり」と自分を責めていないか
もし、思い当たることがあれば、
それは「HARD以上の設定」かもしれません。
そのうえで、自分に問い直します。
「本当に、今もずっとこの難易度で
プレイし続ける必要があるだろうか?」
② 「私の画面に、どんなメーターだけが表示されている?」
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お金
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評価(褒められるか/怒られるか)
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生産性(どれだけこなしたか)
以外に、
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安心
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体調
-
好奇心
-
親しい人との時間
といったメーターは
画面の外に追いやられていないか。
もしそうなら、
小さくこう提案できます。
「今日だけは、“体調メーター”も画面に表示してみよう」
「今週だけ、“安心メーター”を意識してみよう」
ゲームでステータス表示を
カスタマイズするように、
見るメーターを一つ増やすだけでも、
体感は変わります。
③ 「私のゲームには、どんな暗黙ルールが入っている?」
自分の中の「〜してはいけない」を
書き出してみます。
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道を変えてはいけない
-
失敗してはいけない
-
迷惑をかけてはいけない
-
楽をしてはいけない
それが「絶対的な現実のルール」なのか、
それとも
「かつて自分を守るために採用したルール」
「誰かから引き継いだ道徳」
なのか、
一度切り分けてみます。
そして、その一つを
少しだけ書き換えてみます。
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「失敗してはいけない」
→ 「致命的でない失敗は、“経験値イベント”としてOK」 -
「迷惑をかけてはいけない」
→ 「致命的な迷惑は避ける。
でも、支え合いの範囲の“手間”はお互い様」
完璧に書き換えなくてかまいません。
1ミリだけ緩めることが大事です。
7. 一気にEASYにしなくていい。ただ「NIGHTMARE固定」をやめる
ここで注意したいのは、
「よし、明日からはEASYモードで生きよう!」
と極端に振れる必要はない、ということです。
現実には、
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責任
-
しがらみ
-
守りたい人
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維持しなければならないもの
があり、
それらを完全に無視することはできません。
大事なのは、
「常にNIGHTMARE固定」の設定を、
いったん解除する
ことです。
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ある場面ではHARD、
-
ある場面ではNORMAL、
-
場合によってはEASY寄りでもよい
というふうに、
「状況に応じて難易度を調整できる自分」
をゆっくり許していく。
それだけでも、
生きづらさの総量は
じわじわと変わっていきます。
8. 今日できる、ささやかな実験
最後に、
今日から試せる実験をひとつ。
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紙かメモに、こう書きます。
「私の人生ゲームのタイトル」と
「今の難易度設定」例:
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タイトル:「他人に迷惑をかけずにちゃんとした大人でいなければならないゲーム」
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難易度:NIGHTMARE(一度のミス=ゲームオーバー)
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その下に、小さくこう書き足してみます。
「今日一日だけ、
難易度を“1段階だけ”下げてプレイしてみる。」例:
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NIGHTMARE → HARD
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ルール:「一度のミス=ゲームオーバー」
→ 「致命的でないミスは、やり直しOK」
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その日一日、
何か失敗したり、うまくいかなかったときに
このメモを思い出してみます。「あ、今日は“やり直しOK”バージョンなんだった」
これだけです。
人生の大きな方向性を変えなくても、
日々のプレイ感覚は
少しずつ変わっていきます。