思想工学ブログ

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機能する満足度とは?

— 閉塞を打ち破る評価設計の原則 —

「満足度」という指標は、組織や制度の健全性を測るために広く使われています。
しかし、その数字が高いからといって、本当に健全で開かれた状態を示しているとは限りません。
むしろ、その高さが構造的な硬直や閉塞のサインになっている場合すらあります。

では、どうすれば「機能する満足度」を実現できるのでしょうか。思想工学の観点から、いくつかの原則を整理します。


1. 「外部の声」を積極的に導入する

真に機能する満足度は、内部の論理を強化するだけの装置であってはなりません。外部の視点を積極的に取り込み、自己変革を促すものであるべきです。

  • 離脱率と離脱理由の重視
    満足している残留者よりも、満足できずに去った離脱者の声にこそ、制度の致命的な欠陥が隠されています。
    なぜ彼らは去ったのか、その理由を収集・分析することが最優先されます。

  • 参入障壁の測定
    制度に興味を持ったが、参加に至らなかった潜在ユーザーが、何につまずいたのかを測定します。これは、城壁の外から「壁の高さ」を測る行為です。

  • 不満足者の声の増幅
    システム内部の不満の声をノイズとして扱わず、改善のための最も価値ある信号として意図的に増幅し、分析します。


2. 「静的なスコア」から「動的なベクトル」へ

満足度を単一の数字で要約すると、本質的な情報を見失いやすくなります。

  • 多次元的評価
    単一の「満足度」ではなく、複数の異なる軸で評価します。
    例えば、PRENモデル数式版(Perturbation, Relevance, Expansion, Navigability)は、このための優れた枠組みです。
    「快適で分かりやすいから満足」なのか、「知的興奮があるから満足」なのかでは意味が全く異なります。

  • 時系列変化の追跡
    満足度は固定値ではなく、時間と共に変化するベクトルとして捉えます。
    介入や変更の前後で、どの指標がどう変化したのか(ΔS)を追跡して初めて、システムのダイナミクスが理解できます。


3. 「定量(What)」と「定性(Why)」の組み合わせ

数字は「何が起きているか(What)」を示しますが、「なぜそれが起きているか(Why)」までは教えてくれません。

  • 定量データ(例:5段階評価)
    全体の傾向やパターンを客観的に把握します。

  • 定性データ(例:自由記述コメント、インタビュー)
    数字の背後にある文脈、感情、物語を深く理解します。
    例えば「評価は星1つ」という情報よりも、「ボタンが見つからず30分無駄にした」という具体的な記述の方が改善には役立ちます。


4. 「満足」そのものの再定義

最後に、「どのような満足を目指すのか」という哲学的な問いが残ります。

  • 快適な満足(Comfortable Satisfaction)
    摩擦や困難がなく、ただ楽であることから生まれる満足。短期的には心地よいが、長期的には停滞や脆弱性を招く。

  • 成長を伴う満足(Growth-oriented Satisfaction)
    挑戦や困難を伴うが、それを乗り越えることで得られる深い達成感や学びから生まれる満足。
    真に機能するシステムが目指すべきは、後者です。


結論:健康診断としての満足度測定

真に機能する満足度測定とは、単なるアンケートではなく、精密な「健康診断」に似ています。

悪い医者は患者に「気分はどうですか?」と聞くだけです。
良い医者は、多角的なバイタルサイン(血圧、心拍数、血液データなど)を測定し(多次元化)、過去のデータと比較し(時系列)、具体的な痛みや生活習慣を詳しく問診し(定性)、そして何より、問題を抱えた患者の声に真摯に耳を傾けます(外部・不満足者の声)。

思想工学の観点からは、このように診断的で多角的、かつ動的なフィードバックシステムを設計・運用することこそが、「真に機能する満足度」の実現に他なりません。