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生物学・脳科学が示す「幸福論」- 幸福は脳の化学反応にすぎない?

幸福とは何か? - 私たちの問いの始まり 第6回

前回の経済学の回で、私たちは「お金は幸福のすべてではない」という結論に達しました。しかし、もし幸福がお金や社会的な地位とは全く別の、より根源的なものだとしたらどうでしょうか?

今回、私たちは羅針盤生物学と脳科学に向けます。「幸福」という壮大な概念を、ミクロな視点、つまり私たちの脳内で起きる化学反応として解き明かそうとします。


「幸福」を司る脳内物質たち

私たちの幸福感は、脳内で放出されるいくつかの重要な神経伝達物質によって引き起こされます。これらは、私たちが行動を起こし、生き延び、子孫を残すための生物的な生存戦略の鍵となっています。

  1. ドーパミン:快楽と達成感の「報酬」 ドーパミンは、目標を達成したときや、期待した報酬を得たときに放出される物質です。例えば、新しいゲームのレベルをクリアしたとき、美味しいものを食べたとき、仕事で成功したときなどに分泌され、「もっと欲しい」「もっとやりたい」という意欲を生み出します。このドーパミンによる快感は、私たちを次なる行動へと駆り立てる原動力です。

  2. セロトニン:心の安定と充足感 セロトニンは、心の安定や精神的な落ち着きをもたらす物質です。太陽の光を浴びたり、リズム運動をしたり、心を許せる人と交流したりしたときに分泌されます。セロトニンが十分に分泌されている状態は、心が満たされ、安心感に包まれている状態と言えます。

  3. オキシトシン:信頼と愛情のホルモン オキシトシンは、別名「愛情ホルモン」とも呼ばれ、人との身体的な触れ合いや、強い信頼関係を感じたときに分泌されます。例えば、家族や友人とハグをしたり、愛する人と過ごしたりしたときに放出され、幸福感だけでなく、他者への信頼感を高める役割も果たします。


幸福は生存戦略の産物

生物学の視点から見ると、これらの幸福物質は、決して単なる「気まぐれな感情」ではありません。

  • ドーパミンは、私たちに食料を探したり、繁殖相手を見つけたりする行動を促すための報酬システムです。

  • セロトニンは、群れの中で穏やかに過ごすための心の安定を保つシステムです。

  • オキシトシンは、仲間と協力し、子育てを成功させるための絆を強めるシステムです。

つまり、「幸福」という感情は、私たちが生き延び、社会的なつながりを築き、種を存続させるために、何万年もの進化の過程で備わった生物的な生存戦略なのです。


結論:「幸福」は脳の化学反応にすぎないのか?

生物学と脳科学が示す「幸福論」は、私たちが幸福を感じるメカニズムを、科学的で客観的な視点から解き明かしてくれました。しかし、この知見は、私たちの幸福が単なる脳内物質の分泌に過ぎない、という虚無的な結論を導くのでしょうか?

そうではありません。 私たちの行動や思考が、脳内物質の分泌を促すきっかけとなっているのです。例えば、「感謝」という心理学的な行為がセロトニンの分泌を促すように、心の在り方と体の反応は密接に結びついています。

次回は、視点をガラリと変え、文化人類学が示す「幸福論」に迫ります。世界中の異なる文化圏では、幸福はどのように定義され、追求されているのでしょうか?私たちの「幸福」が、実は文化的な思い込みに過ぎない可能性を探ります。